【第六章】 128 進化(シンクロ)
バチッ!!雄拳の左腕が音を立てる。
雄拳はキナミの反撃が嬉しかった。だが、そう感じたのが
ほんの一瞬だったため、雄拳自身に自覚はない。
ただ彼は、『もっと強い蹴りを返そう』、と律儀に考えた。
もう脚は動いている。右脚だ。
バンッ!!ズパン!!雄拳は右ミドルをダブルで蹴った。
・・・今ノ・・・メッチャ手ゴタエアッタ・・・。
雄拳が蹴り足を戻そうとしたその時、超高速で思考する雄拳の眼だけが、
スローシャッターのように対象物を捉えた。
彼の眼が捉えたもの、それはキナミの左脚だった。コマ送りの映像。左脚は
後方に引かれ、たわめられ、床を・・・・・蹴った。
・・・左ミドル!!・・・。雄拳の首筋にピリッと電流が走る。
ソレを喰らった記憶が、瞬時に脳裏に再生される。
雄拳はまだ宙にあった自らの右足で床を蹴り、キナミに向かって突っ込んでいた。
ガチッ!!二人の身体は激しくぶつかり、面同士が当たって音を立てる。
今度は二人は倒れない。もつれるように組み合い、なおも互いに攻撃しようともがく。
「ハイ止めっ!!組まない!・・・離れて!離れて!!」
丸屋師範がその分厚い掌で、二人の身体をやや強引に引き離した。
・・・かあぁ〜〜っ!!アイツ、雄拳、あんなことできるんや・・・。
英二は心底驚いている。たった今雄拳が見せたのは、
ついさっき雄拳自身がキナミにやられた動きそのままだ。
生来不器用で、自分が攻撃することしか考えないようなタイプの雄拳が、
ほんの数十秒の間に対戦相手から学び、学んだことをすぐにやってのけた。
時に試合という非日常の場では、ヒトのカラダに小さな奇跡が起きるのだ。
・・・キナミーッ!ハイキック!勝ってやあ・・・。
試合が途切れたところで、杉小勢のやや控え目な声が飛ぶ。
この試合、前回大会の『雄拳VSサトー』の時に比べ、ギャラリーが大人しい。
さすがの小さな野次将軍たちも、試合の雰囲気に呑まれているようだ。
・・・雄ちゃあん!!元々大人しい片小勢の声援も混じる。ケイゴとマサキだ。
本当はケイゴは、『雄ちゃんガンバレ!』と言うつもりだった。だがどうしても
『ガンバレ』が喉から出ない。
・・・雄ちゃんメッチャ頑張ってんのに、『ガンバレ!』っておかしいやんな・・・。
ケイゴは少し泣きそうになっている自分に気づき慌てたが、気を取り直して
もう一度、・・・雄ちゃあん!!と叫んだ。
何とも誠実な友だちの声援だった。
「ハイッ!!続行!!」
丸屋師範の野太い声が、子どもたちの声援をかき消すように響き渡った。
・・・続く
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