【第八章】 197 カエルとバッタ

 

 立ち上がった四人は扉に向かう。雄拳は一人でで行くつもりだったが、三人が

動いたのが少し嬉しかった。

 

 振り返るとホッシーと目が合った。雄拳が見たことのないマジな顔だ。

 

 ―― こんな顔するんや・・・ホッシー・・・。

 

 雄拳は一瞬、ふだんのトボけたキャラのほうがウソではないかと思う。

 

 「待ちなさい!!止めなさい!!」

 

 背後で井田の声がしたが、四人は暗黙のうちに無視することに決めた。

 

 ガララッ!教室の後ろの扉を勢いよく開けた。

 

 レイジがいた。彼はまるで、扉と連動しているかのように後ろに跳びのいた。

 

 背丈は雄拳より十センチ近くは低い。髪は逆立てた金髪。根元のほうが黒く

まだらになっている。右手にはやはりホウキを持ち、左手にクシャクシャに

なった半紙を握りしめていた。

 

 「ウルサイんじゃ!!お前!!」

 

 雄拳が口火を切った。

 

 「・・・!ななな、なんじゃコラッ!!」

 

 レイジは眉間にシワを寄せ、目一杯威嚇しているつもりだが、怯えが声に

出てしまっている。

 

 ―― ブッぷぷっ・・・。ホッシーが、思わずという感じで吹き出した。

 

 「ななな、なんじゃコラッ!!」

 

 光宏がレイジの声音を真似て叫んだ。今度は雄拳も吹きそうになる。

 

 ―― お前ら!四年やろ!!レイジは叫びながら、左手の半紙をさらに丸めて

手榴弾のように投げてよこした。半紙は雄拳の一メートルほど前までにしか届か

なかったが、雄拳は見た。無残に丸められた半紙にの文字を・・・。

 

 ―― あっ!玉井の玉!やっぱオレの・・・。

 

 雄拳の表情がみるみる険しくなる。すると、雄拳の変化を見てとったレイジが、

ホウキを両手で握り直し、前方に突き出した。続いてホウキの先でカンカンと床を

叩きだす。

 

 「!こっこっ、来いやオラッ!来いやオラッ!!」

 

 威嚇の言葉とは裏腹に、腰が極端に後ろに引けている。雄拳の上がりかけた怒りの

ゲージが下降する。彼はこれとまったく同じ動きを、TVのバラエティかなにかのコント

で見たことがあった。かたわらを見るとあとの三人も同じ思いのようだ。

 

 ―― ぎゃはははははっ!!ホッシーが引き鉄を引く。皆、釣られて弾けた。

 

 その時、教室の前の扉が開いた。井田だ。彼女は五人には目を向けず、階段に

向かって早足で去っていく。

 

 「オイッ!笑わすな!四年の教室やねんから四年に決まってるやろ!!」

 

 気を取り直した雄拳が言うと空気が変わった。レイジの震えが止まる。やや

青ざめた表情の彼は、手に持ったホウキを握り直した。

 

 雄拳は唐突に父の言葉を思い出す。

 

 『武器持ったヤツとは絶対闘るな。もし、どうしても逃げれんかったら、そいつより

長いモノ持て・・・』大体そんな内容だった。だがホウキより長いモノなどここには無い。

それに何より、どう考えても目の前の相手は怖くはなかった。

 

 ――レイジが来たら顔だけはガードする。あとはどこでもエエから思っきり蹴る・・・。

 

 雄拳が覚悟を決めると、ふたたびレイジのボルテージが下がる。

 

 「なっ、なんやねんお前・・・」

 

 「お前が今破った紙、オレの習字じゃ!!」

 「・・・えっ?!そおなん?・・・・・スマン・・・」

 

 ―― はあ〜〜〜・・・。予想を越えた展開に、雄拳たち四人は絶句した。

 

 レイジはついさっき自分が投げつけた半紙を拾い集めると、手でシワを伸ばし、

ペコッと頭を下げながら雄拳に手渡した。

 

 ――・・・おっ、おう・・・。雄拳は思わず、素直に受け取ってしまった。

 

 レイジは照れ臭そうな表情で踵を返すと歩き出す。だが、教室の前の扉のあたりで

立ち止まると、思いきり扉を蹴飛ばした。

 

 扉は大きな音をたて、レールから外れかかってしまう。

 

 ォウアーッ!直せボケェーーッ!!」

 

 「なっ、直したらエエんやろ!!」

 

 レイジは威勢よく言い返すとホウキを床に置き、ガタコトと扉を直すと、今度こそ

振り返らずに去っていった。

 

 ―― 何ですかアレ? 光宏がオドけた調子で言う。―― 意味不明・・・。イッシンの

一言で皆笑い、教室に戻っていく。

 

 

 青ざめた表情の井田が教頭とともに戻ったとき、廊下には誰もいなかった。

 

                         ・・・続く

 

 

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【第八章】 196 カエルとバッタ

 

YUKEN-BK-NEW 022 

 

 ドカンッ!!音がした。大きな音だ。

 

 音をたてたのは教室の後ろの扉だ。音は振動となって廊下側の窓ガラスを震わせた。

 

 四時間目の理科の授業は音によって寸断され、クラスの女子の三分の一あまりと

男子の数名が怯えた表情を見せたが、教室内は比較的落ち着いている。

 

 皆、何が起きたのか分かっているのだ。

 

 ――アホのレイジや・・・。廊下側の後ろから二番目の席に座る雄拳がつぶやいた。

 

 金髪の六年生、野間怜二が校内を徘徊し、廊下から扉を蹴ったのだ。

 

 つづいて何か硬いモノで床や壁を叩く音がした。これも分かる。レイジは徘徊時、

ホウキやモップなど、武器になりそうなモノを持ち歩く癖があった。

 

 担任の井田は、いつもの居丈高な態度はなりを潜め、素知らぬ顔で授業を

続けている。雄拳はそんな井田の顔がよけいに癇に障るのだ。

 

 その時、ビリッ!クシャッ!という聞き慣れない音がした。今度はすぐには

分からない。だが二、三秒後、突然雄拳は思い出した。

 

 ―― あっ!習字やっ!!

 

 先週の習字の時間。字は絵ほど得意ではない雄拳が、めずらしく上手く書けた。

春一番と書いたその作品が、他の数名の常連組のものといっしょに、廊下の

掲示板に張り出されたのだ。

 

 ――あのアホ!オレのミラクル・・・。雄拳は廊下側の窓枠に手を掛けると、

一気に横に引いた。

 

 「玉井君!!ほっときなさい!!」

 

 井田の金切り声が同時に響く。雄拳は井田を見る。頭にはきているが冷静に

観察する。彼女の眼は大きく見開かれ、唇は小刻みに震えていた。

 

 雄拳は唐突に悟った。先週の夕食時だったかの母の話を思い出す。そうだ・・・。

どこかの小学校で暴れる小学六年生を制止しようとした担任が、カッターで切り

つけられて重傷を負ったというニュースについてだ。

 

 ――井田のオバハン、レイジにビビッとんねや・・・。

 

 雄拳は自らの閃きに確信するとレイジに視線を移す。窓越しに二つの視線が

ぶつかった。

 

 「ナニしとんねん・・・お前」

 

 みるとレイジは案の定、字の書かれた半紙の束をグチャグチャにしてその手に

持っている。

 

 「・・・!!ななっ、なんやコラッ!おっ!コラッ!!」

 

 レイジは威嚇しているつもりらしいが、思わぬ年下からの反撃に、あきらかに

狼狽している。

 

 待っとけ!!

 

 

 雄拳が席を立つと、すぐ前の席の光宏、離れた席からはホッシーとイッシンが

立ち上がった。

 

                          ・・・続く

 

 

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【第八章】 195 カエルとバッタ

 

YUKEN-BK-NEW 018 

 

 井田と光宏のカエル事件から三日が過ぎた。雄拳や光宏を中心にした仲の良い

六人は、相変わらず楽しくやっている。

 

 彼らの周囲に大きな変化が生じた訳ではない。それでも井田と光宏が絡むと、

やはり不穏な空気が流れた。だが狡猾な女性担任は、自分が悪者になりそうな

空気を察知すると、自らスッと引くようになっていた。だから大事には至らない。

 

 問題なのはそのことではなかった・・・。

 

 「ウットォしいなあ、六年・・・」

 

 四時間目の前の休み時間、唇を尖らせた光宏が言う。

 

 「えっ?・・・六年って、レイジの事?」

 

 答える雄拳はいま一つピンとこない顔だ。雄拳のいうレイジとは、野間怜次。体格

は小柄だが、髪を金色に染め、授業中に奇声を発したり校内を徘徊したりの奇行が、

教師や保護者のあいだで問題になっている六年生だ。

 

 「ああ、アホのレイジもやけど、アイツの一組の他のヤツとか、

 最近は二組のヤツまで・・・」

 

 「・・・ふうん・・・そおなん?」

 

 「知らんか?雄ちゃん。こないだまでフツーにしゃべってたヤツが、

 カッコつけてからんできよんの・・・ほんまアホやで!!」

 

 イッシンはいつもの苦い顔だが、いつにない強い調子で口をはさむ。

 

 「雄ちゃんデカイし強いし、ケーカイしてんのちゃうか?アイツら」

 

 こんどはケイゴだ。彼も身に覚えがあるのか、丸い目の上のほうが

憂鬱そうに歪んでいる。

 

 「ゆわれてみたら・・・空手の片小の六年も、ちょっと最近変かなあ・・・」

 

 雄拳は何かを思いだそうとする顔でつぶやいた。

 

 「アホォォッ!!

 

 それまで黙っていたホッシーが、妙なイントネーションで叫んだ。

 

 ――ビックリするやろ!!皆が口々に彼を責める。一人冷静なイッシンが、

すこし哀れむような眼をホッシーに向けた。

 

 「いや、お前もアホやけど、アイツらのはもっとイヤ〜なアホ」

 

 ――ハハハハッ!!いつもの掛け合いに皆が笑う。だが、いつもの弾けた

ような笑いではない。

 

 珍しく真顔のままの光宏が、皆の顔をゆっくりと見回し、口を開いた。

 

 「オレな、大体分かってんねん。・・・何でアイツらが急に変わったか・・・」

 

 その時、耳障りな電子音が教室内に響いた。

 

 

 光宏の話は、四時間目の授業開始のチャイムに遮られた。

 

                               ・・・続く

 

 

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【 付録 】 格闘閑話 13

 

YUKEN-F-NEW.11 003 

 

格闘閑話

 

 ※小説本編とは違います。格闘技に関する四方山話的コラムです。

 

 【ゴメンナサイ】

 

 当ブログを始めて以来、初めてこんなに長く休んでしまいました。ゴメンナサイ。

今回はコラムでさえなく、ただもうゴメンナサイのお知らせです。

 

 公私、突然オニ忙しく、いや逆に言うと忙しい以外には理由はなく、休んで

しまってます。その間、数名の方がのぞいて下さったいたので誠に申し訳なく、

ありがたく・・・。

 

 プロフィールのトコにリアル果汁・・・などと触れてますので、今さら隠すまでもなく、

『しょうねんからてみち雄拳』はフィクションとノンフィクションのはざまというか、

ふたつの間を行き来しながら描いてます。そこが難しくもあり、楽しくもあるのですが、

一応彼方の最終章までのすべては、ゴチャッとしてますが当然自分の中にあります。

 

 自分はモノ書きではないので、じゃあ勝手に書けばいいのですが、モノ書きでは

ないからこそ、こういう形(ブログ)をとらないと、最後までやり切らないと思った次第

です。(まことに勝手ながら・・・)

 

 ちなみにリアル雄拳の闘いは今も続いており、リアル英二こと私は、相変わらず傍ら

で観てますが、物語のホントの最後は、リアルタイムの今とかさなってまして・・・。

 

 私リアル英二は、自分が試合に出るという意味では昨年グローブを置きましたが、

リアル雄拳の『人間サンドバッグ』としては現役バリバリです。

 

 今もキーボードを打つ指が、筋肉痛とダメージでプルプル震えてます。

 

  今回はなんかよぉ分からん文章になってしもてます。(パンチドランカーか?)

ですが、物語のほうも近日再開いたしますので、なにとぞよろしくお願いします。

 

                             リアル英二

 

 

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【第八章】 194 カエルとバッタ

 

Y-BATTA 003 

 

 雄拳は顔を上げてその顔を見た。いつにもまして表情が険しい。

 

 「雄ちゃんは悪ないヨ!オレの作品にカンドーしただけやん!!」

 

 光宏が下唇を突き出して雄拳を庇う。

 

 どうせまたアンタが、フザけたもん作って・・・」

 

 井田の視線が机上を這いまわる。

 

 「フザけてないよ!生き物やったら何でもエエって・・・

 そやしオレ、ジーチャンとかバーチャン、笑わせたげよって・・・」

 

 それは光宏の本音だった。彼は思い切り面白いモノを作ろうと思ったのだ。

 

 カエルやで!カエルのお化け!!

 

 ケイゴの声だ。化粧が濃いので分かりづらいが、この時、女性担任の顔から

血の色が失せていた。

 

 彼女は一部の男子児童が自分のことを『カエル顔』と言っているのを知っている。

『カエル』の一言が彼女の胸中のウロコを、まさに逆撫でしたのだ。

 

 開き切った眼で机上の粘土細工に手を伸ばす。作品を守ろうとした光宏の手首を

井田の手が掴んだ。

 

 ―― イッ!イタタタタッ!!

 

 凄い力。大人の本気の力だ。光宏の眼に怯えが走る。井田は、光宏の腕をねじる

ように引きあげ、もう一方の手で作品を奪い取った。

 

 彼女はまるで、悪魔に生贄を捧げる魔女のように、作品を高く差し挙げてゆく。

魔女の大きな口の端がめくれあがった。

 

 「こういうフザけたのは・・・ダメです!!

 

 怒りのために震える声でそう言うと、生贄を机上に投げつけた。

 

 ムッ!!粘土のひしゃげる音が響く。

 

 ―― っ!!光宏と雄拳が同時に叫んだ。

 

 だが、魔女の怒りは治まらない。ひしゃげて粘土の塊りに戻ってしまった作品に

手を被せると、自らの体重を乗せて押し潰してゆく。

 

 粘土に食い込む井田の指を見た瞬間、雄拳の胸中に怒りの火が点った。

 

 彼は説明する言葉は持たないが、分かっていたのだ。ミッチャンの作品は物凄く

変な顔だが、作り自体は本当に丁寧だった。

 

 ――ミッチャン、変な顔をマジメに作ったんや・・・。

 

 井田の顔を見る。

 

 「壊すことないやろ・・・」

 

 井田が雄拳を見る。その怒りは一瞬雄拳に向きかけたが、彼女はハッとした顔

になる。

 

 さっきまでその粘土細工は、自分をからかうために作られたのだと確信していた。

だが確証はない。多くの怯えた冷たい眼が自分を見ている。かと言って、私をからかう

ために作ったのか、と問う訳にもいかない・・・。

 

 「ハイッ、みんな。あまりフザけたモノは、お年寄りの方が気を悪くされるからネ」

 

 井田は口の端を無理やり持ち上げた、人工的な笑顔でそう言った。

 

 ――うわっ!さぶっ!!

 

 雄拳は本当に寒気を覚えた。彼はその顔が一番嫌いなのだ。

 

 光宏の眼に膜が張っている。流しはしないがそれは涙だ。彼はキレると無茶を

することがあるが、ナイーブな一面を持っている。大人の暴力に対するのと、壊さ

れた作品。二つのショックに打ちのめされていた。

 

 さっきまでカエルだった粘土の塊りの横に、何かが転がっている。雄拳はソレを

拾い上げた。

 

 ソレはひしゃげる直前に頭部から外れて難を逃れた、カエルの片方の目玉だった。

 

 「ミッチャン、ほら・・・」

 

 目玉を光宏の手に乗せる。 ――また作ろうや!!笑いかけた。

 

 光宏は答えず、ひしゃげた粘土の塊りに手を伸ばした。右手に粘土ベラを持っている

 

 

 顔を上げた光宏が持つ、大きな大福のような粘土の塊りには、返事代りの

ニコニコマークが刻まれていた。

 

                         ・・・続く

 

 

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押忍!はじめまして!
ぶるーす小

この物語は、リアル果汁90数パーセントに、フィクションスパイス少々・・・な感じでしょうか。空手に限らず、日本全国に、雄拳はいっぱいいるのだと思います。全国の雄拳な少年たちと、彼らを見守る大人たちへ・・・。最後までお付き合いいただければ幸いです。                                                            英二

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